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注)本SSは『HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました』スレに掲載された作品です。 「HELLSING」のヤン・バレンタインを召喚 ルイズとヤンの人情紙吹雪-01 ルイズとヤンの人情紙吹雪-02 ルイズとヤンの人情紙吹雪-03 ルイズとヤンの人情紙吹雪-04 ルイズとヤンの人情紙吹雪-05 ルイズとヤンの人情紙吹雪-06 ルイズとヤンの人情紙吹雪-07 ルイズとヤンの人情紙吹雪-08 ルイズとヤンの人情紙吹雪-09 ルイズとヤンの人情紙吹雪-10
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注)本SSは『HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました』スレに掲載された作品です。 「HELLSING」のアーカードを召喚 ゼロのロリカード-01 ゼロのロリカード-02 ゼロのロリカード-03 ゼロのロリカード-04 ゼロのロリカード-05 ゼロのロリカード-06 ゼロのロリカード-07 ゼロのロリカード-08 ゼロのロリカード-09 タバサとゼロの吸血鬼 ゼロのロリカード-10 ゼロのロリカード-11 ゼロのロリカード-12 ゼロのロリカード-13 ゼロのロリカード-14 ゼロのロリカード-15 ゼロのロリカード-16 ゼロのロリカード-17 ゼロのロリカード-18 ゼロのロリカード-19 ロリカードとギャンブラー-1 ロリカードとギャンブラー-2 ゼロのロリカード-20 ゼロのロリカード-21 ゼロのロリカード-22 ゼロのロリカード-23 ゼロのロリカード-24 ゼロのロリカード-25 ゼロのロリカード-26 ゼロのロリカード-27 ゼロのロリカード-28 ゼロのロリカード-29 ゼロのロリカード-30 ゼロのロリカード-31 ゼロのロリカード-32 ゼロのロリカード-33 ゼロのロリカード-34 ゼロのロリカード-35 ゼロのロリカード-36 ゼロのロリカード-37 ゼロのロリカード-38 ゼロのロリカード-39 ゼロのロリカード-40 ゼロのロリカード-41 ゼロのロリカード-42 ゼロのロリカード-43 ゼロのロリカード-44 ゼロのロリカード-45 ゼロのロリカード-46 ゼロのロリカード-47 ゼロのロリカード-48 ゼロのロリカード-49 ゼロのロリカード-50 ゼロのロリカード-51 ゼロのロリカード-52 ゼロのロリカード-53 ゼロのロリカード-54 ゼロのロリカード-55 ゼロのロリカード-56 ゼロのロリカード-57 ゼロのロリカード-58 ゼロのロリカード-59 ゼロのロリカード-60 ゼロのロリカード-61 ゼロのロリカード-62 ゼロのロリカード-63 ゼロのロリカード-64
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砂場 選択肢 投票 アイテム1 (278) アイテム2 (38) という風に (39) カンマで区切って (50) ね (56) 画廊用ページテスト 水兵服 鬼哭街/Zero 使い魔のカービィ サテライト60 しえすた imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 ルイズさんのアイコン imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 使い魔くん千年王国tree test 表のテスト ※以下の作品は妄想です。執筆予定はありません 半角スペースあり 作品タイトル 元ネタ 召喚されたキャラ ザンキゼロ 仮面ライダー響鬼 ザンキさん(ティファニアが召喚) 00の使い魔(ダブルゼロの~) ゼロの使い魔 ティファニア 半角スペースなし 作品タイトル 元ネタ 召喚されたキャラ ザンキゼロ 仮面ライダー響鬼 ザンキさん(ティファニアが召喚) 00の使い魔(ダブルゼロの~) ゼロの使い魔 ティファニア 上へ 更新日時表示プラグインのテスト。 あ行 ゼロのアルケミスト アクエリアン・エイジ クラリス・パラケルスス 2009-10-11 16 26 48 (Sun) 使い魔くん千年王国 悪魔くん 松下一郎 2009-10-11 16 33 42 (Sun) ゼロの使い魔外伝‐災いのタバサ‐ 平成版 ガメラ ギャオス 2010-12-02 21 08 08 (Thu) ゼロのアルケミスト アクエリアン・エイジ クラリス・パラケルスス 2021-05-03 使い魔くん千年王国 悪魔くん 松下一郎 21 45 24 ゼロの使い魔外伝‐災いのタバサ‐ 平成版 ガメラ ギャオス 2010年12月02日 (木) 21時08分08秒 tree表示テスト ゼロのぽややんtest ガンパレードマーチ 速水厚志(魔王版) 2007-11-05 14 23 55 (Mon) 各作品の目次ページ案 作品hogehoge 人気ページのテスト 今日の人気ページ 長編(五十音順) ゼロの夢幻竜 ゼロな提督 ゼロの騎士団 ゼロの戦闘妖精-02 ゼロの夢幻竜-04 ブレイブストーリー/ゼロ 4 昨日の人気ページ 長編(五十音順) ゼロの騎士団 小ネタ アクマがこんにちわ 蒼い使い魔 ゼロと魔砲使い ゼロな提督 虚無の闇 使い魔のカービィ 長編(話数順) サイト内全体としての案 次のような構成にしてはどうだろうか? 案として、3作品の場合の目次ページの例を作成した。 このうち、「ゼロの使い魔外伝‐災いのタバサ‐」については、目次ページおよび作品ページの例を作成した。 具体的な作品ページ(1つの作品の目次)の内容(特にプラグインの設置方法)については上の「作品hogehoge」での例を参考にしていただきたい。 以下目次の例 あ行 か行 ひとつにまとめたテスト あ行(タイトルその他の文字数が多かったら?) 未作成のページ一覧 長編一覧分割 三点リーダー アスキーアート 折り畳みコメント あ行 ゼロのアルケミスト アクエリアン・エイジ クラリス・パラケルスス 使い魔くん千年王国 悪魔くん 松下一郎 か行 ゼロの使い魔外伝‐災いのタバサ‐ 平成版 ガメラ ギャオス ひとつにまとめたテスト あ行 ゼロのアルケミスト アクエリアン・エイジ クラリス・パラケルスス 使い魔くん千年王国 悪魔くん 松下一郎 か行 ゼロの使い魔外伝‐災いのタバサ‐ 平成版 ガメラ ギャオス さ行 ◎◎◎ △△△ □□□ あ行(タイトルその他の文字数が多かったら?) ゼロのアルケミストアルケミストアルケミストアルケミストアルケミスト アクエリアン・エイジ クラリス・パラケルスス 使い魔くん千年王国 悪魔くん 松下松下松下松下松下松下松下松下松下松下松下松下松下松下松下一郎 ゼロのアルアルアルケミスト アクエリアン・エイジエイジエイジエイジエイジエイジエイジエイジエイジエイジエイジエイジ クラリス・パラケルスス 夜天の使い魔 未作成のページ一覧 つかいま1/2 第一話 使い魔が来た ご主人様は承認せず! 後編 作品ページ名 ゼロの使い魔-02 リンクするページ名 ゼロの使い魔-03a ゼロの使い魔-09a 次ページ名 あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ 三つの『二つ名』 一つのゼロ-10 新約・使い魔くん千年王国 第四章 皇太子 これまでの「悪魔くん」のあらすじ hellouise-8 ゼロの使い-15 豆粒ほどの小さな使い魔-22 寄生獣ゼロ ゼロの探究 真説サムライスピリッツ・ゼロ ゼロの宇宙船日記 はだしの使い魔 3 ソーサリー・ゼロ第四部-16 次虚無と賢女 ゲーム帝国ハルゲギニア出張版 復活・使い魔くん千年王国 第十章 ティファニア スクライド・零-23 出来損ないの魔術師と改造人間-4 マジシャン ザ ルイズ 3章 (60) ザンキゼロ 00の使い魔 ◎◎◎ ゼロのアルケミストアルケミストアルケミストアルケミストアルケミスト ゼロのアルアルアルケミスト 夜天の使い魔 夜明けの使い魔 yes?ナイトメア0 この絵に対するコメント
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学院の教室。一施設の設備としては広大な部類に入る。 そのまま教室に入ると一斉に視線を浴びる2人。 不思議に思い考え込む霧亥。周りをにらみ返すルイズ。 しばらくすると霧亥の興味は、見たことの無い生物に向けられる事になった。 中年の女性が教室に入ってくる。挨拶もそこそこに、彼女は使い魔について思うことを幾つか口にした。 その段になってまたルイズとクラスメートの諍いが起こる。近くの男によれば定番のやりとりらしい。 騒ぎが静まれば、今度はシュヴルーズ(中年の女性の名前だ)が魔法について講義を始めた。 霧亥にとってそれは幻想的な光景だった。もちろん余りに現実離れした、という意味で。 なにせこれだけの人間が一堂に会して、それなりに真面目に『魔法』なんてものについて語る。 ネットスフィアが混沌に沈む前までは残っていた、ありふれていた、現実だった筈の光景。 懐かしい、と思う自分がいることに気づいたのは、ルイズが壇上に立って現実を再認識した時だった。 「ミス・ヴァリエール。練金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」 「はい先生。私、やります」 力場が不確定要素により変化して不純物の塊を置換。次に、別のエネルギーが空間と対象の物体に干渉する。 それを認識してから0.5秒後に霧亥は空を飛んでいた。つまりルイズが魔法を行使して、石を机ごと吹き飛ばしたのだ。 「先生が倒れているぞ!」 「だからゼロのルイズに魔法を使わせるなって!」 「メチャクチャだ…誰か手を貸してくれ!」 さながらセーフガードに襲撃された集落を眺めているかのようであった。 その辺の地面に転がっている石を持ち上げれば、似たような状況を昆虫に見ることが出来るかもしれない。 つまり、パニックだ。 霧亥は『魔法』の存在を疑うことはしなかった。要するに理解できない未知の技術だろう、と納得していた。 しかしそんな中でルイズには心理的動揺が見られないこと、本人のダメージが少ない事に対しては驚かされていた。 いくつか理屈をもっともらしい分析で飾り付ければ、確かに彼女の状況を説明することは出来るだろう。 だけどそんなことを誰もしなかった。当の彼女自身でさえ、そんな理屈は必要としていなかった。 彼女の魔法は常に失敗するのだ、と誰かがぼやく。彼女もそれを認め、少し失敗したわ、と呟いた。 別室で老人が美女に蹴り飛ばされている頃、霧亥とルイズは2人で黙々と瓦礫の片付けを続けていた。 幸いにも生命活動を停止した生物はいなかった。ただ、ほんの少しの失敗で盛大に部屋が壊れただけである。 「私、魔法が成功しないのよ。だからゼロって呼ばれてるの」 「そうか」 それ以上、霧亥は何も言わず、ただ黙々と作業は続く。 霧亥は超構造体に無数に存在した建設者のことを思い出していた。 あとは作業が終了するまでの時間を概算し、タスクを解決するだけ。 ルイズも手伝ってくれているので、少しは早く終わるだろうか。 「ねえ、霧亥の世界に魔法は無かったの?」 「お前たちのような技術は無い」 「じゃあどうやって暮らしているの?」 「場所によって違う」 「…そう」 無事な机は元の位置に戻され、戻しようの無いほど壊れた机は適当に部屋の隅へ放り投げられる。 割れたガラス片はずた袋の中に纏められ、新しい窓を運び込む。煤で汚れた卓上を拭いて、元の位置に戻す。 所要時間89分。タスク完了。 「私、やっぱりダメなのかしら。満足に『錬金』もできないなんて」 ガゴン、と最後の机が元に戻る音がした。霧亥は手を止めて、こう答える。 「魔法そのものが使えないわけじゃない」 「私だって努力したわ!だけど何をやっても魔法使いらしいことは何一つできないのよ!」 「俺を転送したのは魔法じゃないのか」 「信じられないかもしれないけど、あんたが最初の成功だったのよ?次はコントラクト・サーヴァント。やった、と思った…」 そこまで言ったルイズの瞳から涙が流れていた。 「変わったと思ったのに!やっと魔法が使えるようになったと思ったのに!結果はこれ?どうしてなのよ!」 煤だらけのボロ布が空しく地面に叩きつけられた。 霧亥はそれを拾い上げ、ルイズを真っ直ぐに見つめて言う。 「お前は一瞬だが魔法に成功していた」 「……失敗してたのはわかってる、わ。嘘なんて、つかないで。そう、わかってるの…もういい…」 「練金の直後、別のエネルギーが流れ込んでいた」 「だって……詠唱は完璧、だったのよ……」 嗚咽が言葉を途切れ途切れにするのを聞きながら、霧亥は自分の理解できる事象に置き換えて説明を試みる。 「聞け。さっき見た限り『練金』というのを、机の交換を行うようなものと考えろ」 廃棄された机を掴み新しい机の前に立つ。ルイズは話を聞くつもりらしく黙った。 「これを交換するのが『錬金』だ。だが、さっきのお前の『錬金』は…」 机の間に立ち、両方を突き飛ばした。 「今の俺みたいに別の何かが邪魔をしている。だから吹き飛んだんだ」 机を元の位置に戻した霧亥を、ルイズは呆けたような表情で見つめていた。 そして彼女の内臓が空腹を主張したことで正気に戻った。ほんのりと頬に朱がさしている。 「……い、行くわよ」 「わかった」 不安定なドライバで動くハードウェアのような彼女に頷くと、霧亥も食堂に向かって歩き出した。 ほんの1歩だけ彼女が距離を縮めた事には特に気づかずに…。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2587.html
学院長室でオスマンとコルベールは、4人の報告を聞いていた。 「ふむ、つまり宝物は失ったが、そのお陰でフーケは捕らえることができたんじゃな」 霧亥は無言で頷いて、それを肯定する。秘薬とメイジの治療を受けたとはいえ、巻かれた包帯は痛々しいものだった。 「失った物は仕方が無い。フーケを捕らえ、なおかつ死人が出なかったことを幸いとしよう。 今回の君たちの勇敢な働きに応えるべく学院は君たち3人へ『精霊勲章』の推薦を行った。追って沙汰があるじゃろう」 3人の顔がぱぁっと輝いた。 「本当ですか?」 キュルケは驚いた声で言った。オスマンは静かにうなずく。 「……」 霧亥はオスマンを黙って見つめていた。オスマンに聞く事が、彼には存在した。 ルイズはそんな霧亥の視線を、少し勘違いしてはいるものの察することができた。 「オールド・オスマン。霧亥には何も無いんですか?」 「残念ながら彼は貴族ではないからの。使い魔である以上、彼の功績は自動的に主人である君に反映されるのじゃよ」 「そうですか……」 オスマンは思い出したかのように手を打つ。 「さて、今夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。トラブルはあったが外側だけでも宝は取り戻せたし、フーケも捕まった。 予定通りに執り行うとしよう。楽しむといいじゃろう」 キュルケの顔はぱっと輝いた。 「そうでしたわ!フーケの騒ぎですっかり忘れておりました!」 「今日の舞踏会の主役は君たちじゃ。用意をしてきたまえ。せいぜい着飾るのじゃぞ」 3人は礼をするとドアに向かった。だが霧亥は微動だにしない。 ルイズもキュルケもタバサも霧亥のことチラっと見つめて立ち止まった。 「先に行け。俺は聞くことがある」 切り替えが早いキュルケは笑顔で立ち去り、タバサが後に続く。最後のルイズも、頷いて出て行った。 「何かね?君は今回の最大の功労者じゃから、できる限りの力にはなろう」 「3つ聞きたいことがある」 「言ってみなさい」 コルベールは興味深げに、2人の会話に耳を傾けた。 「視界に文字が見える人間の話を聞いたことはあるか?」 オスマンは首を横に振った。 「あの『異界の板』は、いつ、どこで手に入れた?」 「ワシの命の恩人の遺品じゃよ。30年も前になるか…ワイバーンに襲われているところ、その者に助けられてのう」 「……助けた?」 「うむ、いきなり空に出現して落下してきたのでワシも驚いていたのじゃが、運悪くワイバーンも驚いてしまってな。 そのとき咄嗟に放った魔法は今でも忘れんよ。見えない力がワイバーンの首を綺麗に刎ねた、あの光景はな」 「それからどうなった」 「いきなり彼は倒れてしまったよ。今思えば、あれは彼の最後の力ではなかったかと……そう思うこともある」 「そのときに『異界の板』を手に入れたのか」 「彼は奇妙な鎧に身を包んでいたがそれはどうやっても外せんかったし、杖は一緒に埋葬するべきだと思ったからのう」 オスマンは遠い目をしていた。 「その男の遺体はどこにある」 「うむ?」 「墓を調べる必要がある」 「待ちなさい、どういうことかね?」 「男は俺と同じ世界から来た可能性が高い」 「世界?つまり君は別の世界から来たということかね?」 「ほほう。興味深いのう」 これにはコルベールが反応した。オスマンの目も光る。 「今から、というわけにはいかないが、墓は近いうちに見せてあげることはできるじゃろう」 「よろしいのですか?」 「かまわんよミスタ・コルベール。彼の功労無くしてはこの一件、君も含めた教員を動かさねばならんところじゃった」 「……もうひとつ聞きたいのは、これだ。何か知っている事はあるか?」 霧亥は自身のルーンの事も伝えた。自分の力では制御できない未知の存在。優秀な補助機能だが干渉が強制的なのも確かだ。 ルーンに関する知識を持たない彼にとってこれは危険なデバイスという認識だった。 そちらの方はすぐに正確な解答を得られることができた。 ガンダールヴ。魔法の祖の使い魔。あらゆる武器を使いこなす存在。魔法の詠唱を行う主の防衛を目的とする。 大剣と長い槍を用いたとされるがその武器が現存するかは不明。その知名度を利用した贋作も多数存在。 「ルイズは伝説の魔法使いなのか?」 「わからん。彼女はむしろ魔法の実技に関して言えば最低レベルと言ってもいいじゃろう。しかしな…」 「彼女の失敗は通常の失敗とも違う。少なくともあんな失敗例は正直なところ、異常です」 「と、ミスタ・コルベールの言うとおり、少し気になる点があるのも事実じゃ」 「……」 とにかく、とオスマンは言った。 「君には感謝している。あまり力にはなれないかもしれないが、私もコルベールも君の味方じゃ、ガンダールヴ。 おぬしがどういう理屈でここにいるのか、似たような事例は無いのか、私なりにあたってみるとしよう。でも」 「……?」 「何も判らんでも恨まんでくれよ?なぁに、この世界も住めば都。何なら嫁さんも探してやろう。ふぉふぉふぉ」 「…………」 霧亥は話は終わりだと言わんばかりに、踵を返して部屋を出た。そしてデルフリンガーに話しかける。 「デルフリンガー」 「ダメだ、思い出せない」 「そうか」 「悪ぃな相棒……」 「気にするな」 アルヴィーズ食堂の上層が大きなホールになっていて、舞踏会はそこで行われていた。 なぜ人々が踊るのかを霧亥は知らない。だが特に行くあてが無いので、会場の隅にひっそりと立っていた。 キュルケは男たちに囲まれて笑っている。タバサは料理と格闘中だ。 「こんばんは、キリイさん。噂では大変な活躍をしたと伺いました。あ、肉料理はいかがですか?」 「……くれると助かる」 給仕をしていたシエスタが話しかけてくる。あちこちで忙しそうに人々が動き回っていた。 「お怪我はよろしいのですか?」 「ああ」 モグモグと動物性のたんぱく質を摂取する。シエスタは気を利かせて、ワインの瓶を渡してくれた。 「不純物が多い」 「それは澱(おり)って言うそうですよ。古くて良いワインには、そういうものがあるそうです」 「そうなのか」 「マルトーさんの受け売りですけどね……でもキリイさん、凄いですね。フーケを捕まえちゃうなんて」 「偶然だ。運が良かった」 このセリフはデルフリンガーの受け売りだ。どうせ何度か聞かれるだろうから、という彼の見込みは正解だった。 運というのは、この世界では確率よりも通りが良くて当たり障りの無い表現だ。 霧亥は特に反対する理由は無いので、こういう状況での言動はデルフリンガーの提案を採用することにした。 「でも、やっぱりすごいですよ」 「それが役割だ。俺にシエスタのような技術は無い」 「役割ですか」 「洗濯は苦手だ」 「……キリイさんって、実は面白い人ですね」 くすくすとシエスタが笑い出した。なぜ笑っているのか霧亥には理解できない。 「あ、私、そろそろ仕事に戻らなくちゃ。何か欲しいものがあったら言ってくださいね」 「わかった」 シエスタが去ってから暫くして、ホールの壮麗な門が開かれていった。 騎士と思しき兵装の男が、声高々にルイズの到着を告げる。 楽師達が音楽を奏で、多くの男たちが今まで小馬鹿にしていた美しい少女へとダンスの誘いへ向かっていく。 しかしルイズはそれらの誘いを全て断ると、霧亥の元へと真っ直ぐ歩いてきた。 「楽しんでる?」 「……」 無言で肉料理をルイズへ差し出す霧亥。ルイズはひとつそれを口に運ぶと、美味しい、と言った。 霧亥は近くにあったテーブルにトレイを戻すと、ふたたび壁に寄りかかる。 「おお。馬子にも衣装じゃねーか」 デルフリンガーもルイズに気づいたのか、そう言った。 「文句ある?」 ルイズはどこに持っていたのか、杖を取り出す。 「いえ、全然大丈夫です」 「踊らないのか」 霧亥はルイズに尋ねた。 「相手がいないの」 「あれは誘いじゃなかったのか?」 ルイズは無言で霧亥へ手を差し出した。 「どうした」 「お、踊ってさしあげても、よくってよ」 霧亥は首を横に振る。 「それは俺の役割じゃない。それに両腕が完治しないとあの動作は困難だろう」 「あ……そっか、腕……」 ルイズはしばらく無言だった。音楽だけが、静かに流れている。 「ねえ、霧亥。私、信じてあげるわ」 「……?」 「あなたが別の世界から来たってこと。あんな道具、私、見たこと無いもの」 「そうか」 「私の姉さまが王立魔法研究所の研究員だから、私も少しはマジックアイテムなんかには詳しいの。 それで、その道具がマジックアイテムかどうかを調べる魔法があるんだけど、その魔法では引っかからなかったみたいね」 「……」 ルイズは俯いた。 「ねえ。帰りたい?」 「戻って確認したいことがある。その為にも情報が必要だ」 そうよね、と彼女は呟いた。それから頬を赤らめると、思い切ったようにこういって来た。 「ありがとう。その、フーケに人質に取られたとき、助けてくれて」 「気にするな」 そう霧亥は答えた。 「俺は使い魔としての役割を果たしただけだ」 「おでれーた!」 静かにパーティを眺める2人の後ろでデルフリンガーが感嘆の声を漏らす。 「主に踊りを誘われる使い魔も見るのも、それを断る使い魔を見るのも、俺ァ初めてだぜ!」
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行きは2人だが帰りは4人となり、そのうち2人は喧嘩をしていた。ルイズとキュルケだ。 賑やかなのを通り越して煩くなったが、移動による疲れもあってじきに静かになった。 「やっと黙ったか?うるせー娘っ子達だ。ちったー慎みってのを覚えたほうがいいな」 「何ですって!? …って、あらダーリン。インテリジェンスソードなの?それ」 「……そうらしい」 「あえてそんな口の悪い錆びてる剣を選ぶなんて、やっぱり面白くて素敵だわダーリン♪」 「いつアンタのダーリンになったのよツェルプストー!」 「あら私の前じゃ…」 「「……」」 タバサが少しだけ眉をひそめていた。本が読みたいのだが捗らないらしく、黙って竜を操っている。 しかしそのまま喧嘩が再燃しそうなのをとうとう腹に据えかねたのか、おもむろに杖を振るった。 「うるさい」 「う、わ、悪かったわよ……ところで誰よアンタ。何でツェルプストーと一緒にいるの?」 「あたしの友達だからよ。この風竜は彼女の使い魔なの」 「タバサ」 「え、霧亥も知ってるの?」 「図書館で助けてもらった」 タバサが頷く。様々な視線が4人(主に霧亥を除いた3人)の間で交差する。 その後は誰も喋ることなく、夕食の時間になるころには学院に戻ることができた。 空に月がぼんやりと浮かびあがり大地を照らすころ、4人は外にいた。 結局タバサと霧亥は2人の喧嘩を止めることができなかった。 そして壁にヒビが入る。 「あたしの勝ちね、ヴァリエール」 「うう、屈辱…」 「帰るぞ」 霧亥が戻ろうとしたその時、地鳴りとともに地面が隆起して巨大な人の姿を形成していく。 「……素材が地面と同じもので構築されている。何だあれは」 「きゃあああああああああ!ゴーレム!?」 「盗賊!?ちょっと霧亥!なにボサっとしてるのよ!」 「行け」 「いいからこっちに「逃げるわよヴァリエール!」ちょっとツェルプストー!離してよ!」 「乗って」 霧亥はデルフリンガーに手をかけながら様子を伺うと、いつでも回避できるように構える。 一方で2人をレビテーションで浮かばせたタバサがそのまま風竜で2人を掴むと距離をとる。 ゴーレムは、ルイズとキュルゲがタバサの風竜で逃げ、霧亥がじっと眺めているのも意に介さない。 そのまま壁を破壊して中が見えると、黒いローブを身に纏った盗賊が宝物庫に侵入した。 しばらくして何かを持ち出してくる。それは長方形のプレートのようなものだった。 壁に何か文字を刻んで、悠々と立ち去っていく。誰も止めるものはいない。 「これが『異界の板』ね…いったい何なのか知らないけど、確かに2つとない宝だわ」 黒いローブの正体は『土くれ』のフーケという。 フーケはルイズ達の存在に気づいているが、この距離なら顔は見られないだろうと思っている。 顔さえ見られなければ、後はどうとでも誤魔化すことができる。それは事実だった。 霧亥はフーケの顔より手に持った道具に目を奪われた。 素材までは判別できなかった。だが見逃せない刻印があったのだ。 縦線と十字架を左右対称に刻んだ、その文様。 「セーフガード」 網膜の表示を確認した霧亥は、フーケの追跡を開始した。 2人が野を駆けている。一人は逃げて、一人はそれを追いかけている。 フーケが背後を振り返れば、夜の闇に紛れて竜が追いかけてくるのも見ることができた。 だが追跡してくる霧亥を確認して以来、フーケに振り返る余裕はない。 「(大剣を持ったままでなんてスピードだい?さっきから随分走ってるのにと、ちっとも疲れが感じられない…)」 このままでは霧亥に追いつかれるのは明らかであるのをフーケは認識する。 その追跡者を振り切るべく、3回同じ呪文を唱え、続いて別の呪文を1度唱えた。 「おでれーた!この速度なら追いつけるぜ相棒!」 「様子が変だ」 異変を察知した霧亥は、走りながらデルフリンガーに手をかける。 「エネルギーを計測…周囲の素材でまた何か生成している」 「ありゃゴーレムだ。魔力が小さい?ゴーレムにはもっと…けど数が11、12…まずい、まずい!」 「黙っていろ」 ルーンが起動し、霧亥が戦闘行動を開始する。 胴体を両断。縦に両断。胸に突き立てたデルフリンガーを抜く間に襲い掛かるゴーレムを殴って動きを止める。 だがその間に別のゴーレムが霧亥を思い切り殴りつけ、デルフリンガーごと霧亥の体が宙を舞う。 3メイルほど飛んだかと思うと、霧亥は口から血を流しながらデルフリンガーを支えに立ち上がった。 「やられたぜ相棒。他のゴーレムは単なる土人形か単なる土の造形で、本命はあいつだ」 「……」 鈍い音を立てて近寄ってくるそのゴーレムをデルフリンガーを振りぬいて破壊する。 ズン、と鈍い音を立てて全てのゴーレムは元の素材に戻った。 後には土くれの山が出来上がっただけである。 「なあ、ちょっといいかい」 「……」 学院に向かって歩いてかえる霧亥に、デルフリンガーが話しかけた。 「今ので思い出したことがあるんだ。俺の刀身で触れた攻撃魔法を吸収して動力に変換できる。 今のゴーレムは厳密には攻撃魔法じゃないから無理だが、役に立てそうかい」 「ああ」 「良かった。あともし何かあったとしても、一時的ならこっちで所有者の体を操作できる。ある程度の魔法を吸収してないとダメだけどな。 それに手に持ってくれないと無理だ」 「……」 霧亥は立ち止まってデルフリンガーをじっと眺めた。しばらくしてデルフリンガーが弁解する。 「待ってくれ!あくまでも緊急避難用だし動作優先権はそっちの方が上位だ!勝手に操ったりしねーって! まさかここに置いていこうなんて考えてないよな?」 霧亥は答えず、黙って歩く。風竜がこちらに接近してくる。 「なっ?せっかくいいコンビになれそうなんだ。俺ッちが機能を回復させれば探索も楽になるぜ。だから捨てないでくれよ相棒」 「……帰るぞ」 その後で心配する3人をよそに、霧亥は歩いて学院まで戻った。 翌朝になってもまだ、学院は『土くれ』のフーケについてで大騒ぎになっていた。 教員一同は詳しく現場を調べたり、生徒たちに事情を説明したりしていた。 昼前になるころには目撃者に対する聴取が行われていた。 この時に教員一同を集めてルイズ、キュルケ、タバサを召喚するべきだと提案した教員はコルベールという。 コルベールはかつて従軍していた経験もあって、こういう異常事態にも適応力を持つ人だ。 今回も慌てる教員や生徒たちに対して、冷静に沈静化を図るべく行動をしていた。 「申し訳ないが、君たちには事件について話してもらわなくてはならない」 こうして3人と使い魔である霧亥(トカゲ2匹は大きさと有効性が無いと判断されて放置された)は 教員一同と学院のトップに囲まれることになった。 「さあ、見たことを詳しく説明してくれたまえ」 進み出て語りだしたのはルイズだった。 「大きなゴーレムが壁を壊して、その肩に乗っていた黒いローブのメイジが何かを持ち出したんです」 「つまり、君たちが魔法の練習をしていたところに『土くれ』のフーケがゴーレムで現れたと」 そう尋ねるのはオスマン学院長。動揺よりも疲労感のほうが色濃い。 「それで?」 「城壁を越えてゴーレムは歩いてきました。そしたら私の使い魔がフーケを追いかけていって…」 「なんと!君の使い魔が『土くれ』のフーケを?」 これには多くの教員たちが驚いた。だがルイズの次の発言に、更に教師たちは驚かされる。 「それで、私たちは使い魔を追いかけたんです。とても危険なことだと思いました。 そうしたら霧亥…使い魔は、少し進んだ先で無数のゴーレムと戦って足止めされていました。 結局は逃げられてしまったようなのですが……」 「戦った?一生徒の使い魔が、あのフーケのゴーレムと?ならば無事なわけが」 「いやいやギトー先生、彼は以前、グラモン家の子息との血統で…」 「だけどあの黒い服は確かに怪しい……」 静粛に、というオスマンとコルベールの声により沈黙が取り戻される。 「君は…確かキリイという名前だったね。キリイくん。君はフーケについて何か知らないかね。どんな些細な事でもいい」 「俺が見た限りでは――」 霧亥が答えようとしたとき、遅れてミス・ロングビルが現れた。彼女はオスマンの秘書だ。 「……と、いうことで私が調べたフーケの報告は以上です」 「ふむ、この生徒たちの証言とも辻褄が合うな」 彼女は遅刻に対する非難の目を意に介さず、調べ上げたデータを報告した。 「ではフーケに対する捜索隊を編成する。我こそは、と思うものは杖を掲げよ」 コルベールの最初の提案は政治的な都合により却下され、捜索隊が編成されることになった。 だが志願する教員はいない。フーケの実力からして、下手をすれば戦闘になるからである。 そのまま無言で部屋を出て行こうとする霧亥と、それに気づいて杖を掲げるルイズ。 「行きます」 それに合わせてキュルケとタバサも杖を掲げた。 「しかしタバサが『シュヴァリエ』の称号を持ってるとはね」 彼女たちは馬車に揺られている。移動に疲労せず魔力を使わずに済むように、という配慮である。 御者を務めるのはロングビルである。戦力になり、道を知っている、というのが選出の理由だった。 「ところでミス・ロングビルは…」 「よしなさいよ」 「あら、いいじゃない」 霧亥はロングビルを何度か眺めるとじっとしている。 タバサは本と霧亥を交互に眺めてから、本を読むことに専念した。 そして一向は馬車を降りて森へと向かっていく―――… 一向は開けた場所に出た。森の中の空き地。広さはそこそこ。 真ん中に廃屋が1軒だけ存在している。 「わたくしの聞いた情報では、あの中にいるという話でした」 ミス・ロングビルは廃屋を指差してそういった。人が住んでいる気配は無い。 そんな気配よりも雄弁に語る情報を霧亥は見ていた。4人が相談をすべく集まるが、霧亥は歩いて小屋へ近づく。 「ちょっと霧亥!」 「あの中に有機…生き物は存在しない」 戸惑う4人を意に介さず、そのまま近づいてドアノブに手をかける。 鍵すらかかっていないドアは乾いた音を立てて開け放たれた。 「近くにフーケがいないかどうか、偵察に行ってきます」 そう言い残してミス・ロングビルは森の中に消える。 他の3人は、罠が無い事を確認すると小屋の中に入ってきた。 持ち去られた品物の奪還が、この捜索隊のひとつの目的だからである。 「異界の板」 発見したのはタバサだった。それはチェストの中に無造作に放り込まれていた。 「あっけないわね!」 キュルケがそう叫んだ。ルイズもそれに同意したようだ。 「携行型マルチデバイス。上位セーフガードの標準装備」 霧亥がそう口にする。 「え、どういうこと?」 3人の視線が霧亥に集中した。全員が興味津々といった様子だ。 「この世界の道具じゃない」 「あら、使い魔さんはこの道具の使い方をご存知なのですか?」 偵察を終えたミス・ロングビルが戻ってくる。霧亥はそれを手にとって操作してみた。 電源が生きている。そのまま幾つか操作してログを調べてみた。 「これに触れたことはあるか?」 ミス・ロングビルに尋ねる霧亥。彼女は首を横に振った。 「見たことはありますが、触るなんてとても」 「……持っててくれ」 ポケットを探りながらデバイスをミス・ロングビルに手渡す。 ミス・ロングビルは霧亥の手元が気になるのか、何の気なしにそれを受け取った。 「おい、相棒。俺を置いてどうしたんだい」 「待て」 地面に突き立てたデルフリンガーも理解できない、といった具合に尋ねている。 そのまま霧亥はミス・ロングビルからデバイスを返してもらうと、再び操作を開始した。 「……お前がフーケだ」 「何の冗談ですか?」 片手で構えたデルフリンガーをミス・ロングビルに突き付ける霧亥。 操作して生体反応のログを確認していたのである。 「これには触れた人間の記録が残る。フーケが持っていったときの記録とお前が一致した」 「……ちょっと油断しすぎたね。そんな面倒なマジックアイテムだと知ってたら触らなかったのに」 「ミス・ロングビル!?」 3人は目の前で起こった出来事が理解できないようだったが、じきにタバサは杖を構えていた。 「なぜこれを狙う」 「魔法学院の宝だからさ。だけどアタシにもそれが何なのか判らなかった。アンタ、知ってるみたいだね? 逃げも隠れもしないから教えてくれないかい?そりゃ、いったい何なんだい?」 「俺の世界の手帳のようなものだ。だがこれを持つ存在はかなり限られる」 フーケが笑ったような気がした。事実笑っていたのだが、それを認識する瞬間に部屋が煙に包まれた。 「煙――キャッ!?」 タバサがとっさに杖を振るい部屋の窓ごと煙を吹き飛ばしたが、そこで状況が変化していた。 ルイズが人質にとられてしまったのである。 「ミス・ロングビル!どうしてこんなことを!」 「簡単よ。1つはお金、もう1つは、私が貴族を嫌いだって事。さあ、その『異界の板』の使い方と中身を説明して渡しなさい。 下手に動けばこの娘の首を切り裂くわ」 「わかった」 「おい、相棒」 「別にいい」 そのまま操作して情報を調べ上げる。所有者は上位セーフガードの一人で、最後にアクセスしてから随分と長い時間が経過していた。 とある大規模な珪素生物との交戦の際に、時空隙に巻き込まれてしまったようだった。 「この『異界の板』にある機能を全て開放させるには、この板に持ち主を認識させる必要がある」 「続けな」 「お前がこの板の、この赤い四角の中に触れた後に特定の操作を行えば、その認識が可能だ」 「中身はどうだったんだい?」 「周囲の地形の情報を見ることができる。どんな形で、目立つような生き物がいるかどうか」 「そいつはいいねえ……さあ渡すんだ」 「ルイズを開放するのが先だ」 「立場ってもんが判ってないようだね?」 ミス・ロングビル……フーケは、そのまま長い呪文を詠唱すると、巨大なゴーレムを作り出す。 そこに乗っかると、ルイズとの交換だと言った。 「持って行け」 「霧亥!それを持って帰ってフーケを手配してもらって!私は死んでもいいから!」 「……」 放り投げられるデバイス。 フーケはそれを受け取るとルイズを突き飛ばし、手帳の赤い部分に指を押し付けた。 「へえ、綺麗な画面だね……ん?何か点滅して……キャアッ!?」 突然デバイスは稲妻のようなものを放つと、ボン、と音を立てて爆発した。 「お前、騙したね!」 激昂したフーケのゴーレムが、霧亥を軽々と殴り飛ばして樹木に叩きつける。 木の幹はそのまま真っ二つに折れた。フーケは次にキュルケとタバサに攻撃を加えようとした。 「無理よこんなの!」 すかさず杖を拾ったタバサとキュルケは魔法を打ち込むが有効打には成りえない。 ルイズも杖を拾ったとき、風竜が飛んできた。 「ヴァリエール!逃げるわよ!」 「退却」 だがルイズは動かない。彼女は怒りと恐怖で震えていた。 目の前で人が殴り飛ばされるのも、ナイフを突き付けられるのも初めてだ。 「このーっ!この!この!」 ルイズはファイアーボールを打ち込む。当然失敗して、そのままゴーレムの一部が抉れただけだった。 「ヴァリエール!ちょっと、ヴァリエール! ああもう、馬鹿ルイズ!」 「レビテーション」 「待って!霧亥が!」 「もう駄目よ!」 ルイズの体が浮遊したのをすかさず風竜が口に咥え、急いで飛び去る。 膨大な質量を持つ拳が彼女たちの存在する空間座標に攻撃を加えるが、ギリギリでの回避運動に成功していた。 「チッ、逃げたか!とんだ失態だよ…!」 飛び去る風竜を見送りながら、フーケはゴーレムを解除して逃げる算段に入る。 「(このまま森を抜けてゲルマニアの方面に逃げるか、あるいはアルビオン方…)」 そんな思考は、倒したはずだと思った使い魔の攻撃で中断された。 腹から飛び出している錆びた刃は血で濡れている。 「あ……」 理解する間もなく自分の腕が折られ、足が折られた時点で彼女は気を失った。 「相棒、容赦ねーな…って、相棒…おめーも腕が…」 「これは敵だ」 「まだ生きてるぜ」 「どちらも回収して帰る」 フーケの杖をへし折り、デルフリンガーを握りなおす霧亥。 「待った、殺すな相棒。上手くいけば賞金が手に入るぜ。確かこういうのは生きてた方が増えることが多いんだ」 「……」 無言でデルフリンガーを腰に固定し、爆発したデバイスの外側の残骸を回収する。 そのままフーケを抱えあげると、霧亥は再び歩き出した。 そして止めていた馬車を使って学院に戻る。 「フーケを捕らえ、不完全だがデバイスも回収した」 「霧亥?」 「ダーリン?」 「……生きてる?」 学院に戻ると、3人がそれぞれ驚きの余りに立ち尽くしていた。 しかしその後ですぐに駆け寄ってきて、抱擁を受ける。 その際に腕が折れているのに気がついた一同により、霧亥も治療を受けることができた。 ルイズは何を思ったのか、少し泣いていた。
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「私は・・・・・・ゲルマニアの皇帝に嫁ぐ事になりました」 窓の外の赤い月を見るアンリエッタの瞳の色は、悲嘆に染まっている。 それだけで、彼女がこの結婚に対してどう思っているかが、痛い程にルイズは理解できた。 「アルビオンの革命が原因なのですね」 「えぇ、彼ら革命軍―――レコン・キスタは、今にも王家を倒し、国を乗っ取る勢いです。 いいえ、もう、事実上は彼らが乗っ取っていると言っても良いでしょう。 何せ、王国軍はほぼ壊滅状態で、ニューカッスルの城に篭城する事でなんとか生き延びているらしいですから」 敗北は時間の問題。 そして、その時間は限りなく短い。 「レコン・キスタは、全ての王権の廃止を謳っている以上、我々にも牙を剥く事になります。 悲しい事に、その時、彼らの進攻を防げる力は我が国にありません。 ですから・・・・・・トリステインは、ゲルマニアと早急に同盟を結ばなければなりません。 ふふ、そのような悲しい眼をしないで、ルイズ。 王族として生まれた以上、好きな人と結婚とする事など疾に諦めています」 「・・・・・・姫様」 「私が自分の心を殺せば、幾万の民の命が救えると言うのならば、喜んで私は自分の思いに杖を向けましょう。 王の命は民の為にあるのですから」 儚げに微笑むアンリエッタに、胸を締め付けられるような感覚を覚えたルイズは、どうしても彼女に同情の気持ちを抱いてしまう。 他人から羨まれて仕方の無い王族と言う彼女の立場。 しかし、果たして其処に居る事は、今、目の前で幸せを捨て去るしかない少女が望んだモノだったのだろうか? 「トリステインとゲルマニアの同盟・・・・・・これが結ばれたとなると、レコン・キスタも容易に手出しを出来なくなるでしょう。 ですが、向こうの者達も、それが分かっているらしく、私とゲルマニアの皇帝との婚約破棄の為の材料を血眼になって探しているようなのです」 アンリエッタは言葉を区切り、ルイズの眼を真正面から見据えた。 「私を悩ます原因は、この婚約破棄の原因となりえる物がある事です」 「原因となりえる物・・・・・・?」 「えぇ。私が以前、アルビオン王家・・・・・・ウェールズ皇太子に宛てた手紙。 その手紙が、ゲルマニア皇室に届けられたなら、恐らく、同盟どころの話では無くなるでしょう」 ルイズは、男性としてとても魅力的な事で有名なウェールズ皇太子の名前とアンリエッタの言葉の端々に散りばめられた感情から、 その手紙とやらの内容が、恋文である事が予想できた。 なるほど、大方、遠距離恋愛の文通の中で、戯れに婚礼の言葉でも書いてしまったのだろう。 ブリミルの教えの中で、重婚は重い罪である。 明るみに出れば結婚どころでは無いと言ったのは、どうやら比喩では無いらしい。 アンリエッタは、自分の胸の内だけに秘めた事柄を発した事により、先程よりも幾分、顔から緊張が解けていた。 対して、ルイズの表情は固い。 次に、アンレエッタが言ってくる言葉が予想できた為にだ。 「ルイズ・・・・・・今日、貴方の部屋に訪れたのは、この事に関係しています。 率直に言うと、貴方にはアルビオンに赴き、ウェールズ皇太子の下から手紙を回収してきて貰いたいのです」 心苦しそうに眼を伏せるアンリエッタに、ルイズは、ほらキタと、心の中で盛大に溜め息を吐いた。 「フーケ討伐の噂は、私の耳にも届いています。 幾多のメイジが苦汁を舐めさせられたフーケを捕らえたと言う貴方を見込んで、頼みます、ルイズ」 たかだか『土』のトライアングルのメイジを捕らえただけの生徒に戦場に行って来いと言うのか、この姫様は。 ルイズは、そのあまりの常軌を逸脱した頼み事に、ただ呆れるしかなかった。 温室育ちだと思っていたが、ここまではとは。予想外にも程がある。 だが、幾ら予想外と言えど、友人の・・・・・・しかも国の最高権力者の娘である人の頼みを無碍に断るのは、貴族として如何なものか。 「一つ、聞きたい事があります」 これだけは聞いておかなければならない。 「敵の数は、如何ほどですか?」 「・・・・・・・・・・・・五万、と聞いています」 五万人もの有象無象の敵の中に、切り込む自分の姿をルイズは夢想して、そのあまりの実現の難しさに頭を抱えた。 (ホワイトスネイク、あんた、五万の人間に勝てると思う?) どの道、城に近づくには包囲しているレコン・キスタと事を構えなければならない。 ならば、せめてどのくらいの確立で勝てるかを己の使い魔に問い掛けたルイズであったが――― (勝利ヲ前提トシテ考エルトナルト、君ト私ノ力ヲ最大限活カシタトシテモ難シイダロウ。 ダガ、手紙ノ回収ダケヲ目的トシ、敵陣ノ突破ダケヲ考慮スルノナラバ・・・・・・マァ、ナントカハナルダロウ) (あんた、五万人をなんとか出来るって言うの?) ―――割りと出来そうなニュアンスの言葉を返してきたホワイトスネイクに、思わず聞き返してしまった。 (数ハ、私ニトッテ致命的ナ脅威トナルコトハ無イ) 自身ありげな態度の使い魔に、胡散臭そう、と言った感じの視線を向けてから、ルイズは、アンリエッタの海色の瞳を覗き込む。 淡い色合いをしているその瞳の奥は、友人を死地へと送る罪悪感からか、どんよりと曇っている。 「姫様」 「・・・・・・はい」 「微力ながら、ルイズ・フランソワーズは、全力を尽くして目的の物を回収し、姫様へ届ける事を、此処に誓います」 「―――ルイズ」 ありがとうと、口元を押さえ俯くアンリエッタを見ながら、ルイズは拳を握り締める。 少なくとも、自分を訪ね、迷いを打ち明けた“この少女”は友人だ。 友人であるならば、自分は全力をもって彼女の苦痛を和らげなければならない。 それが、友達と言う関係であるのだから。 「頼みましたよ。ルイズ。 それから、これは王家に伝わる水のルビーです。 お金に困った時には、どうぞ、これを売り払って旅の路銀にしてください」 頼み事が済んだアンリエッタは、自分の指から引き抜いた指輪を手渡すと、 ルイズに一礼をしてから部屋の扉を開け、出て行こうとしたが、どうしても足が動かない。 「姫様?」 怪訝な顔をしたルイズの声に、アンリエッタは、あぁ、と悲しげに呻いた後に、マントから丸められた羊皮紙を取り出した。 「国よりも我を通す私は、きっと王族になど生まれてきてはいけなかったのでしょう。 ですが・・・・・・それでも、私は・・・・・・」 今にも泣き出しそうなぐらいに悲痛な呟きを漏らし、手紙をルイズの手に確りと握らせてから、アンリエッタは言葉を続ける。 「自分の気持ちに嘘をつけない・・・・・・こんな王女を、誰も許してくれないのでしょうね」 懺悔にも似た響きを持つ音に、ルイズは何も言えなかった。 いや、空気を読める者ならば、この時、誰も何も言えなかっただろう。 「だ、だ、だ、誰が許さなくても、僕が許します、このギーシュ・ド・グラモンが許します!!」 空気の読めない馬鹿一名は、声高々に反応した。 ルイズもアンリエッタも、突然現れた人物に驚いて固まってしまう。 そんな二人の様子など、もはや眼にも入っていないのか、 先程からずっと部屋の壁に耳を当てて話を聞いていたギーシュは、やれ、悩みなんて即座に解決してみせますとか、 レコン・キスタなんて、僕のワルキューレでこてんぱんにしてやりますとか、 あからさまに己が領分を履き違えた台詞を言いまくっていた。 なんとかアンリエッタより早く再起動をしたルイズは、目障りな金髪少年を連れて行くように、自分の使い魔に目配せすると、 ホワイトスネイクは、ギーシュの首根っこを掴んで、ずかずかと何処かへ去っていった。 最初は、放したまえ、とか、気安く触れるな、とか、強気な声が聞こえていたが、何かを殴るような音が廊下響いた後は、 勘弁してください、とか、もう許して、とか、実に情けない声に摩り替わっていた。 「あ、あの、ルイズ?」 「すっぱりきっぱり、今の事は忘れてくださいませ、姫様」 笑顔でそう言うルイズに、アンリエッタはこくこくと頷くと、 そのままフラフラと部屋からルイズの部屋を出て行った。 その後ろ姿を、ルイズはぼんやりと眺めていたが、 ギーシュをフルボッコにしたホワイトスネイクが帰ってくると、廊下と自室を隔てる扉を閉めるのだった。 早朝と言うのは、どうして、こうも気が滅入るのか。 才人は、そんなことを考えながら溜め息を吐いた。 「何、ぼさっとしてんのよ。さっさと付いて来なさい」 勝気で、傲慢で、可愛らしいご主人様は、朝も早くから元気一杯らしく、 まだ寝ている才人を蹴りの一撃で文字通り叩き起こしてから、 有無を言わせずに、剣を握らせて自分の後を付いて来るように言い放ったのだ。 ルイズと才人のどたばたに目覚めて、あからさまな不快感を隠さずにルイズを無言で見つめていたシエスタに、 出掛けて来る事を一応言っておいたが、あの顔はまったくもって納得していない顔であった。 帰ってきたら、多分、修羅場なんだろうなぁ、とか才人が考えている内に ルイズは目的の場所に付いたのか、早足だった歩調を止めた。 そこは、寮の五階ある一室の前であった。 「タバサ、起きてる?」 こんこん、と軽くノックをしてから返事を待つルイズであったが、三秒後には扉を抉じ開ける。 「ちょっと、入るわよ~」 良いのかよ、とか才人は思ったが、意見を口に出したら返答は蹴りか裏拳なので、何も言わない。 と言うか、言えない。 「何、まだ寝てるの?」 ベッドの上、ルイズ達が入ってきた事も気付かず、すぅすぅと眠っているタバサは、 上等なピスクドールのように、生きている、と言う単語から掛け離れた可憐さを持っている。 密かに、起こさずにこのまま寝顔を鑑賞したいと変態チックな考えに浸っていた才人を尻目に、 ルイズはベッドの真横に立つと、そのまま軽くタバサの頭を小突いた。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・イタイ」 「起きたみたいね」 小突かれた頭を右手で押さえながら、タバサは恨めしそうに痛みの原因を作った人物を見たが、 そんな視線など気にもならないのか、ルイズはさっさと本題を口にする。 「あんたの使い魔。悪いけど、貸してくれない?」 あまりにもあまりな物言いに、流石のタバサも溜め息が口から出るのを止めることは出来なかった。 「アルビオン?」 「そう、急な用事でね」 自分の使い魔なのだから、どうして必要なのかを訊ねるタバサにぶっきらぼうに返答するルイズ。 その返答に、タバサは昨晩、彼女の部屋に王女が訪ねてきた事を思い出し、 恐らく国許からの頼まれた用事である事を看破したが、その内容までは流石の彼女も分からなかった。 「あんた相手に押し問答をする気も無いわ。 貸すの? 貸さないの? どっち?」 人にモノを頼んでいると言うのに高圧的な態度を崩さないルイズに、タバサは母国の勝気な従姉妹を思い出したが、 すぐに今の状況とは関係ないと彼女の顔を頭から追い出す。 「早く返事しなさいよ。こちとら竜が借りられないなら、馬で出発なんだから」 苛立たしさげに口調を荒げるルイズを宥めようと才人が、まぁまぁと声を掛けるが、返答の裏拳で沈黙する。 ふんっ、と鼻息荒く裏拳を放った拳をプラプラとさせて殴った痛みを散らせているルイズに、 タバサはベッドから立ち上がり、枕元に置いてある自分の身の丈程もある杖を手に取った。 「何のつもりよ?」 「使い魔は一心同体」 だから、と続きを紡ぐタバサは、大きな杖を確りと構え淡々とした声で告げる――― 「私も同行する」 ―――パジャマ姿で。 「・・・・・・どうかと思うわ」 本当に 緩やかとは掛け離れた風に身を委ねるタバサは、ルイズに注意された所為で、 パジャマでは無く学生の正装である制服姿となっている。 「うわっ! すげぇ! この竜すげぇ!!」 「五月蝿い!!」 背後の雑音に気を取られる事も無く、自分達を凄まじい勢いで運ぶ使い魔の首を撫でるタバサの顔は、睡眠不足の為か、幾分眠たそうであった。 「大丈夫、あんた?」 「問題無い」 普段通りの無愛想なタバサに、ルイズは、そう、と別段追求もせずに進行方向とは逆。 つまり、自分達が出発してきた学院の方へと視線を向ける。 「キュルケの奴・・・・・・どうしてるのかしらね?」 そういえば、あの赤毛の少女には何も言わずに出てきてしまった。 伝える義理が無いと言えば無いが、やはり友人に一言も無しに居なくなるのは、心苦しいものがある。 例え、それが伝えられないであろうものだとしてもだ。 「あんた、どう思う? キュルケが、今、何をしているかって」 ルイズの問い掛けに、タバサは暫く考え込むと、ルイズの方へと振り向き口を開く。 「怒っている」 「でしょうねぇ」 こりゃ、帰ったら大変ね、とルイズは頭を抱えるのだった。 ちなみに、同時刻。 もう出発したとも知らずに、ルイズ達を正門の前で待ち続けている、 髭を蓄えた凛々しい男が、何時まで経っても来ない彼女達に、ルイズと同じように頭を抱えているのは、 別にどうでも良い話だったりする。 第十一話 戻る 第十二話
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「職業はガンダールヴとありますが?」 「はい。ガンダールヴです。」 「ガンダールヴとは何のことですか?」 「使い魔です。」 「え、使い魔?」 「はい。使い魔です。武器を取ると覚醒します。」 「・・・で、そのガンダールヴは当社において働くうえで何のメリットがあるとお考えですか?」 「はい。敵が襲って来ても守れます。」 「いや、当社には襲ってくるような輩はいません。それに人に危害を加えるのは犯罪ですよね。」 「でも、ワルドにも勝てますよ。」 「いや、ワルドごときとかね・・・」 「竜の羽衣にも乗れるんですよ。」 「ふざけないでください。それに竜の羽衣って何ですか。だいたい・・・」 「人殺しの道具です。ゼロ戦とも書きます。ゼロ戦というのは・・・」 「聞いてません。帰って下さい。」 「あれあれ?怒らせていいんですか?帰りますよ。日本。」 「……いなくなったらやだ。……なにしてもいいけど、それだけはダメなんだから。」 「運がよかったな。12巻は東方に行かないみたいだ。」 「あんたの忠誠に報いるところが必要ね!めめ、面接官の体、一箇所だけ、好きなとこ、ささ、触ってもいいわ!」 あの作品のキャラがルイズに召喚されました part63 - 134
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無数の超構造体を越えた先。いつかの未来。ネット端末遺伝子。 システムの正常化。暴走の停止。再起動。機能の正常化。 ――そして探索者は不要となり、解体屋が生成された。 これはその不要となった探索者が辿り着いた世界の話である。 Maybe on the earth. Meybe on the future. クエストクリア 一人の男が、端末から正常化していくネットスフィアを見つめていた。 彼の網膜に表示されるのは任務の成功を告げる文字であり解雇通知である。 この瞬間、人類は魔法のような能力を失う代わりに平穏な世界を手に入れた。 そして混沌の時代が終焉していく。その、始まりだった。 ギン、という金属的な音が聞こえてくる。 珪素生物たちの襲撃が始まったのだ。目的はこの端末だろう。 接続された少女と機械を交互に見て男は銃のようなものを握り、外へ出る。 やがて敵は倒れた。だが、彼は2度と端末のある部屋に戻る事は無かった。 『冷たく静かな大地が明るくなる頃、人影は丘の上に登った。 ……大地ってなんだ』 彼は、その大地に立つことになった。 Maybe on the ******. Maybe beyond the something. 至る所に、ぽかりと抉れた無数の穴が開いている。 魔法使い見習いの少女が、何回も何回も頑張って魔法を使い続けた成果だった。 そこから大して離れていない場所で、無数の生徒や教師たちが彼女を見守っている。 やがて魔法で呼び出されたのは一人の男だった。 男は、名前を尋ねる少女を見てこう言う。 「霧亥だ」 その後、彼女は彼に口付けるために顔を寄せてきた。 彼は動けなかった。痛みではない。もっと別の事実からだ。 「……感染の形跡が無い?だがネット端末遺伝子も持っていない」 「何ブツブツ言ってんのよ。いいから行くわよ」 フィールド……霧亥の用いる認識なら階層……は、彼にしてみれば酷い混沌に満ちていた。 無数の色、流動する大気。空には、多くの人類が永劫目にすることの無いと思われた雲まである。 何かハッキリしていることがあるとすれば、霧亥には理解できず、言語化できない状況だということ。 そして探索を終え、来たる脅威を退け、永木にわたる時代に終止符を打ち、用済みになったことだけだった。 彼らの装備は、霧亥から見れば原始的と言って差し支えないレベルのものだった。 基本的に探索のため、メンテナンス不要で人間とはそう変わらない構造のボディではある。 霧亥に自由は無い。この世界に迎合するか自壊するかのどちらかしかないだろう。 そこまで考えた彼が常に持っていた装備が無いことに気づくまで、そう時間はかからなかった。 ルイズとの会話には問題は生じなかった。だが、文字の認識には問題が発生していた。 認識についてもかなりの齟齬があり、彼女に理解できるレベルまで説明を簡易化するのには時間を要した。 彼女の認識はこうだ。 1.霧亥はこの世界とはまったく違う場所から来た。その世界のことはよくわからない。 2.どこかで働いていたがクビになった。だけど何とか最後の仕事はやりとげた。 3.武器を持っていたが失われてしまった。ここの文字は読めないけど会話は出来る。 つまりルイズは霧亥のことを、異世界の平民か兵隊で、今は無職なのだと認識していた。 さらに遠方の国家の人間のように、文字が読めないので教育の必要があるとも思っていた。 一方、霧亥はルイズの状況に関しては正確ではないものの、概ねの把握を行うことができた。 彼の蓄積されたデータと似たようなケースを照合した結果で、経験の勝利である。 たっぷりとした時間を使って、ようやく彼女は本題に入ることが出来た。 空には2つの月が昇り、きらきらと星が輝いている時間で、夢の世界へ行きたがる時間だ。 「で、貴方には使い魔になって欲しいのよ」と、ルイズは言う。 「使い魔って何だ」と霧亥は尋ねた。 珪素生物の発生源となった『教団』と呼ばれた連中の一部が、準独立型デバイスを指してそう言っていた。 彼のデータにあるのはそれくらいであり、行動が多岐にわたる程度にしか記録されていない。 「まず目となり、耳となってもらうわ」 「お前は接続端末を持っていない」 「何それ?っていうか、私のことはご主人様って呼びなさい。口の利き方がなってないわ」 「……他には何だ」 「特定の品を見つけてくることね。秘薬の材料である硫黄とかコケとか」 「わかった」 「知ってるの?」 「見たことは無いが、サンプルさえあれば可能だ」 「はぁ……それからこれが最優先事項なんだけど、主人を、その能力で敵から守ることよ」 「わかった」 「ホントにわかってんの?アンタ見た感じ、タダの顔色の悪い平民じゃない」 「……他には何だ」 「洗濯、掃除、その他雑用」 「わかった」 「………さっきから同じ言葉しか聞いてない気がするんだけど?」 「そうだな」 ルイズは呆れたようで、そのまま眠ることに決めたらしい。 霧亥はどうしたらいいのかわからないので部屋を出ることにした。 ここには珪素生物もいない。それほど睡眠も大切ではない。 敵でない相手の機嫌を損ねないようにするのが上策。 それが霧亥の探索行における原則であり、経験則であり、男女間に対する常識でもあった。 いくら時間が経とうとも変わらぬ本能の営みは、確かに人という種に残り続けたのだ。 「どこにいくの?」 「外だ」 「基本的に外出禁止だし、いくら学院近くでも外には狼や野犬がいるわ。ここで寝なさい」 「狼?ここには野生の生物がいるのか?」 「当たり前じゃない……ねえ霧亥、貴方のいた場所では、そんなに生き物が珍しいの?」 「俺のいた環境の有機生命体は数が乏しかった」 「ユーキ……生き物のこと?」 「そうだ」 「寂しい場所なのね……ここはたくさん生き物がいるわよ」 「興味があるな」 「私が許可するまで勝手にどこか行っちゃダメよ」 「……」 「おやすみ。アンタは床で寝なさい。あと洗濯物、そこに置いてあるから明日洗って。」 霧亥は答えなかったがそのまま横になる。そのうちルイズが眠ったのを確かめると、自分も寝た。 "使い魔"霧亥の新たなクエストが、今、始まる… 何時間か経過して外が薄っすらと光っていることに気づいた霧亥はそのまま起きて外に向かう。 洗濯をする場所を求めて1時間ほどさ迷い続けた結果、川と呼ばれた場所に向かい、手で洗うことになった。 シエスタと名乗るメイドと偶然出会い、そのまま案内してもらったのだ。 「噂には聞いています。平民の使い魔なんて聞いた事が無いって…あの、顔色が悪いですよ」 「元々だ」 「そっ、そうでしたか。失礼しました! ………あ、あの」 「?」 「そんなに強く洗うと破けちゃ…」 ビリ、という嫌な音が聞こえる。 「……。」 「……後はやっておきますか?」 「頼む」 こうして霧亥は下着と朝食を失う代わりに、協力者を一人得ることに成功した。 周囲の建材や人々をスキャニングをして、彼はここが全く異なる世界であることを認識していた。 ここは多くの有機物で溢れていた。まるで丁寧にデバッグしたプログラムのようだと霧亥は思った。 重金属や合金、合成製品の類は極めて微量であるか、全く存在していなかった。 太古の昔、超構造体が設計されるより、ネットワークが存在するよりも前の時代がこの風景だった。 ハルケギニア。素晴らしき有機物の楽園。珪素生物たちの言うカオスとは異なる、真の混沌の満ち溢れる世界。 光は程よく減衰して適切な温度を提供していた。強固な外装やシェルターのような設備など、ここには不要なのだ。 霧亥は自分が死者の国にいるか、あるいは自分の意識だけがシミュレータの中で動いているような錯覚を覚えた。 もちろんそんなことは無い、ということを彼の有機デバイスの方が教えてくれる。 自分はスタンドアローンである。その事実が自分自身に対する論理的な矛盾の解消を可能にしていた。 サナカンにより登録を抹消された時よりも前から、ずっとそれは変わることは無かった。 彼は人間と呼ぶには多くの部分で異なっている。だが、機械と呼ぶには余りにも人間的だった。 それが幸運なのか不運なのかは人によって判断が分かれる部分だろうが、とりあえず霧亥にとっては幸運なのかもしれない。 部屋に戻るとルイズはまだ寝ていた。放っておくのも問題だというのは想像することができる。 それに新しい情報が必要であった。ネットワークが滅んだ環境で活きてくるのは、原始的な方法である。 そういう点で不都合を出さないことが彼の長期間の、それなりに安定している探索を可能としていた。 霧亥はルイズを起こそうとしてみた。 体をゆすってみる。起きない。 声をかけてみる。返事はあるが、起きない。 両方同時に試みてみる。起きた。 「何…誰あんた」 「霧亥」 「使い魔…そっか、昨日召喚したんだっけ…」 もぞもぞと起き上がってくると、欠伸をして、ぶっきらぼうにこう言い放つ。 「服」 無言で近くにある洋服を手渡す。 「下着」 「どこだ」 「そこのクローゼットの一番下に入ってるわ」 確かに昨夜見た下着と同型のものが入っている。霧亥はそれを取り出すと、ルイズに手渡した。 「服」 違うのか、と尋ねると、どうやら着せて欲しいようだった。 「自分では装着できないタイプなのか?」 確かにナノスキンスーツのような形式のものは特殊な設備が必要だった筈だ、などと見当違いの解釈をする霧亥。 「時々変な言い回しを使うわね。そっか…異世界人だったっけ…。もう少し言葉を覚えた方がいいわよ。 ……私が言いたいのはね?霧亥。着せてくれる人がいるなら、わざわざ自分から着ないということ」 霧亥は頷いた。滅多に無いことだが、大規模な人間の集落で特定の人間に対してそういう事をさせる場合がある。 あまりいい気分では無かったが別に断る理由もないので、さっさと着せておくことにした。 部屋を出ると別の女と鉢合わせした。女性はキュルケと名乗り、何やらルイズとしゃべっている。 霧亥は名前を一言告げると背後の有機生命体に気づいた。どういう原理か、尻尾が燃えている。 「どうやって燃焼させているんだ?」 「知らないわよ、そんなの」 その後、キュルケと名乗る少女が食堂へ向かい、自分たちも続くことになった。 食堂は広大なもので、これほどの人数を収容するほどの集落を、霧亥はあまり見たことが無かった。 設備が残っていても肝心の人間が死滅しているケースは何度かあったが、両立しているのは稀だ。 「貴方の食事はそれよ」指差す先にあるのはスープとパン。 「少ないな」 「貰えるだけありがたく思いなさい」 「そこにあるのは食べられないのか」 霧亥は人間の食物や珪素生物のグリス、他には電力等のエネルギーを動力とすることができる。 効率では断然後者だが前者でも最低限の活動は可能であり、制御可能な範囲ではあるが食欲というのもある。 エネルギーが無いのに動ける訳は無いのだから、それを求めるのは当然の事だった。 最も、その「動ける」時間は人間よりも遥かに長いのだが。 食事が終わると彼女たちは再び移動を開始した。聞けば授業だと言う。 『学校は戦場だ』 「…?」 霧亥は何故かそんなフレーズを意識していた。
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「歩いていかないのか」 「城下町は遠いのよ。歩いていったら今日中には帰ってこれないわ。馬に乗るのよ」 「なんだこれは」 「だから、馬よ……まさか乗ったことが無いとか?」 「生きている」 「当たり前じゃない。死んでたら乗れないでしょ。私みたいに、そのまま跨ればいいのよ」 「……」 霧亥は始めて見る馬という生物に乗れ、と言われ冷や汗をかいていた。 そもそも制御できない意思を持った生命体に移動を依存するということが危険に思えてならなかった。 だが他に代替手段も無いと理解すると仕方なしに乗ることにした。時間を考えれば、手段は選べない。 「これが街か」 「そ、大きいでしょ!」 結局、馬に慣れるには幾らかの時間を要したが、何とか辿り着くまでには乗りこなせるようになっていた。 城下町も霧亥から見れば、狭く、うるさい。学院ですら雑多な環境に圧倒されていたが、ここは更に強烈な場所だった。 物売りが声を上げ、道端に食物が放置され、人々がそれを眺めたり取引を成立させたりしている。 急いでる人、のんびり歩いている人、老若男女、様々な人種がそこにひしめいていた。 「ブルドンネ街。この国で一番大きな通りよ。この先にトリスティンの宮殿があるわ」 「中央政府か」 「そういうことになるわね」 「そんなものがあるんだな」 「馬鹿ね。無ければどうやって国の事を決めていくのよ」 「企業が支配している場所があった」 「企業?わけわかんないわ……」 そのまま路地裏に向かって歩く。路地裏は更に不衛生で狭かった。 うずくまる人間、破砕された壁。悪臭の立ち込める溝。中ではゴミが腐敗している。 どうみても普通の人間――ましてやルイズが好き好んで寄り付くような場所ではなかった。 「おい」 「何よ」 「どこに行くつもりだ」 「武器屋よ。『守れ』っていうなら、それなりの道具は与えておかないといけないじゃない?」 「……」 「あ、ここよ。あったわ」 石段をあがり、羽扉を開け、店内に入る。中はランプが主な光源だからか、薄暗い。 そこには所狭しと武器や防具が並んで、奥には店主と思しき男がいた。 胡散臭げに、しかし値踏みするようにこちらを見つめる。 「旦那。何をしたかは聞きませんが、ウチは貴族のガキを売りに来る場所じゃありませんぜ。 そういうのを売りたけりゃ3軒隣の薬売りの婆さんに相談してみてくだせぇ。厄介ごとは御免ですよ」 「客よ」 ルイズがそう答えると武器屋の親父は2人を交互に見つめて首をかしげ、のそりと立ち上がった。 「こちらの旦那が剣を?失礼ですが、金は持ってるんでしょうね」 「これだけあれば足りる?」 懐から袋を取り出して何度か振ってみせる。中には少なからず金属の詰まっているような音が聞こえた。 親父は面倒くさそうにパイプを卓上に置いてと店の奥に入っていくと、小ぶりな剣を持って戻ってきた。 「こういうのを御所望で?」 「あら、綺麗な剣ね」 「昨今は宮廷貴族が下僕に武器を持たせるのが流行っているようでしてね。そういうとき選ぶのがこういうのですよ」 「下僕に剣を?どうして?」 「何でも貴族ばかりを狙った盗賊がいるようでしてね。『土くれ』のフーケというそうですよ」 盗賊には興味が無かったのか、ルイズが剣をじろじろと眺めている。 長さ1メートル。細身。手元を狙われにくくするためか、ハンドガードもついている。 「これでいいんじゃない?」 「すぐに折れる」 「そうなの?」 霧亥は周囲の武器に含まれる材質をいくつかスキャンしていた。 その結果、この剣では役不足だと判断したのだ。 「別のはあるかしら?」 「少々お待ちを」 今度は布で拭きながら、大きな剣を持ってくる。 柄は長く、随所に宝石が散りばめられ、刀身は光り輝いていた。 「すごい…」 「この店一番の業物、ゲルマニアの錬金術師、シュペー卿の作でさぁ。 なんでも魔法がかかってるらしく、鉄でも切れるんじゃないかって言われてますぜ」 「おいくら?」 ルイズは気に入ったようだった。1番、という言葉のもたらす魔力なのかもしれない。 一方、霧亥の視線は違った。魔法がどうかは計測できないが、材質だけ見れば単なる銅と錫の合金である。 「新金貨なら3000、エキューなら2000」 「立派な家と森付の庭が買えるじゃない」 「良い剣は城に匹敵することもありますぜ」 「ルイズ」 「だからって……何よ、霧亥」 「これは駄目だ。宝石は本物だが、刀身はさっきの剣のほうが硬い」 「わかるの?」 「ああ」 ルイズが驚いた表情で霧亥を見つめている。一方の店主も、面倒くさそうな表情とパイプの火を消した 腰を伸ばして霧亥をまっすぐ見つめると、ハッキリとした声でこう言ってきた。 「……たまげたね。モノを知らない貴族だと思って馬鹿にしていたが、旦那は大した目をお持ちだ。 確かにこいつは飾るほうの武器で、戦う為のモンじゃありやせん。いますぐ真っ当なモン持ってきやす」 「だはははは!おめぇの負けだな親父。素直に本物のシュペー卿の作品でも持ってくるしかねえなあ、こりゃ!」 「うるせぇデル公!目の節穴な貴族ばっかり相手にしてりゃ嫌気もさすってもんだ!ああ、そうだよ!俺の負け、大負けよ!」 「ここいらが年貢の納め時だな、親父よう!」 店の奥ではなくカウンターの下から箱を取り出したかと思うと、1本の長い剣と鞘を出してきた。 霧亥とルイズは声の主を探しているが、じきに霧亥が堆積した剣の奥から剣を引きずり出す。 錆の浮いた刀身は、その剣が長きに渡って使われずに放置されていることを示していた。 ガチガチと鍔のあたりが動き、そこから声を発しているように見えた。 「お、おお?なんだテメー、俺をどうするつもりだ?」 「お客さんすいません!そいつはデルフリンガーってインテリジェンスソードでさぁ。 口は悪いわ客に喧嘩は売るわで手を焼いてるんです。ウチが売るのは装備だけで十分だってのに」 「ケッ、何も知らずに武器について偉そうにしている連中が悪いのよう」 大剣と呼ぶには刀身が細いが、長さは遜色が無い。そのまま霧亥はデルフリンガーを片手で手にとって眺める。 「自我を持っているのか?素材も他のとは随分違う。さっきの2つよりも硬い」 「…おでれーた。こりゃ親父を笑えんね。しかも、てめ『使い手』か」 「『使い手』って何だ」 「フン、何だ。おめ、自分の実力もしらねーのか」 「……スロットついているか?」 「あン?なんだそりゃ」 「これは理解できるか?」 「ちょっと霧亥!なにやってるのよ!」 ルイズの言葉は耳に入らないかのように、店主やルイズに聞きなれない言語――音と言ってもいい――を口にする。 0100101011010101110―― 『ッハァ!?何だテメーは!なんで俺ッチの始祖の言語を知ってやがる!60世紀ぶりに聞いたぜ!』 『お前はどこから来た。』 『ワリーが今すぐには思い出せねえ。てめ、マジで何モンだ?始祖ブリミルだってこの言葉は知らないはずだぜ』 『情報が欲しい。』 『いいぜ。だが俺の記憶は上代みたくはいかねえ。素材の魔力的侵食と精神構造からか、もう随分と欠落しちまって治せないんだ。 人間たちの言葉なら「忘れた」っていえばわかってもらえるか?それと、俺はこの世界で作られたから細かいことは…』 『お前を買うように伝える。思い出したら言え』 「キリ、イ?」 「お、おい、デル公?ブッ壊れちまったのか?」 不安そうに見つめる2人に、霧亥は平然と答えた。 机の上にある『本物』のシュペー卿の剣が輝いている。 「これを買う」 「買ってもらうぜ」 「へ、へえ、そう言うなら勿論お売りいたしやすが…こっちはどうしやす?紛れも無い本物ですが」 「どうなの?霧亥。私にもこれはさっきの2本より良いってわかるわ……」 明らかに魔力が付与された剣だった。素材、形状は申し分がない。 「買えるのか?」 「そうだ、お値段…」 「新金貨なら600、エキューなら400ですよ。随分と良心的な値段だとは思いますがね」 「んー…これなら納得できるんだけど…生憎と200しかないのよ。諦めるわ」 「んじゃデル公をお買い上げで?あいよ。ついでに、この鞘と短剣もお付けしまっさ」 「短剣?」 「へい、何でも旅の職人が愛用してた『三得包丁』って品でして。武器には物騒ですが、1本あると便利ですぜ」 「貰えるなら貰っておくわ」 ルイズが袋の中身を何枚か出している間に、霧亥は店長に尋ねる。 「他にこういうのは無いのか?」 「このデル公は黒衣の商人から買ったんですがね、来歴はサッパリわからねーんでさぁ。 それに元々、インテリジェンスソードってのは数が少ないんで、もうウチにはありやせんね」 「わかった」 「こら!ご主人様を置いていくな!」 外に出ると見慣れた2人が物陰に隠れているのを霧亥は探知した。片方はキュルケ、片方はタバサである。 「ツェルプストー!なんでこんな場所にいるのよ!」 「あら、私のことはよくご存知でなくて?」 「あ、アンタまさか…!」 「プレゼントで先手を打ったつもりでしょうけど……」 「「……」」 2人が喧嘩を始めるのを、霧亥は剣を2本、タバサは本を1冊抱えて、黙って眺めていた。